2016年07月04日
財務省が6月1日に発表した法人企業統計調査(平成28年1-3月期)によると、「従業員給与・賞与・福利厚生費」は+8,275億円(2.1%増)ですが、売上は343兆円から332兆円へ、経常利益は17.5兆から16.9兆へと減少しています。
(平成27年1-3月期と平成28年1-3月期の比較です)
これに対し、
「利益剰余金」は3月末時点で前年同期比5.9%増の418兆円。
前年度末の395兆円から約23兆増えています。
利益が減ったとはいえ、赤字になったわけではないので利益剰余金は増えています。
前々回、前回と書いてきましたが、これは制度上あたり前のことです。
統計調査から類推すると、企業全体では、
売上は減少、人件費は増加、利益は減少
というのが現実のようです。
実際に、
経営計画を下方修正してでも、人件費を上げるという選択をする企業も出てきました。
日経新聞2016.6.5 保育大手、賃上げ厚く 人手不足の解消急ぐ
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB04H0G_U6A600C1MM8000/
しかしながら、
まだまだ「内部留保」という言葉を使ったマイナスイメージのニュースが散見されます。
膨らむ内部留保 増えない給与 366兆円 最高更新
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201606/CK2016060502000129.html
“内部留保”過去最高でも、企業はなぜ従業員の賃金を上げようとしないのか
https://thepage.jp/detail/20160614-00000011-wordleaf
アベノミクスで日本企業の内部留保がさらに肥大、“タックスヘイブン“ケイマン諸島への投資額激増も判明!
http://news.livedoor.com/article/detail/11633602/
内部留保という言葉に対する誤解をいろんな人が過去に何度も指摘していますが、こういうニュース記事はなぜかなくなりません。
統計調査の数字の見方も色々です。
できるだけ原典にあたるようにすれば見誤ることはなくなるでしょう。
ではでは。
★これまでの連載はこちら
●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(2)
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/306/
●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(1)
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/300/
●消費税の仕組みをおさらいしよう
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/297/
2016年05月30日
内部留保の話の続きのはずでしたが、政治資金の公私混同が話題になっているので、今回は関連した話題について書きたいと思います。
彼の場合は、個人事務所というか、中小企業のオーナー経営者の感覚のまま政治家になってしまった残念な例なのでしょう。
「民度の反映」と言ってしまえばそれまでですが、「一緒にされては困る」という方も多いかもしれません。
舛添知事を「中小企業の社長のようだ」と評するのは、彼らに失礼だ
では、経営者ではなく社員でもやりがちな公私混同を考えてみましょう。
会社の業務用パソコンで私用のネットを見る、
会社のメールアドレスを私用に使う、
貸与された業務用携帯電話を私用で使う、
営業車を私用に使う、
これくらいなら、皆さん、多かれ少なかれ身に覚えはあるでしょう。
カラ出張で出張手当をもらったり、
私物を買ったのを経費に紛れ込ませたり、
出入り業者に多めに請求書を出させてキックバックをもらったり、
そこまでいくと業務上横領という立派な犯罪です。
犯罪までいかなくても、税務上あやしい処理もあります。
役員・従業員の飲食費、いわゆる「社内飲食費」は「会社が社員に食事という経済的利益を与えた」という考え方で、原則的には「現物給与」として本人に課税されるものですが、給与課税されずに経費処理できる場合もあります。
新年会、忘年会、歓送迎会など、一般的に会社で行われている全員参加型の宴会費用は福利厚生費として経費処理することができます。
会議のときのコーヒー代や弁当代は、常識の範囲内であれば会議費として経費処理できます。
その他の場合も、業務上必要な飲食であることが明らかであれば交際費として処理でき、給与課税されることはありません。
業務上必要かどうか疑わしい場合、ぶっちゃけ単に社員同士で食べただけの飲食費は、現物給与として本人に課税されます。
租税特別措置法関係通達 61の4(1)-12
あっちは税金、こっちは俺たちの売上じゃないか!
そう、個人事業主でない限り「俺たち」の売上であって、あなた一人が稼いだお金ではないですよね。
みんなが納めた税金と、みんなが稼いだ売上、どちらも公私混同で使い込むのはよろしくないと思いませんか?
彼を擁護しているのではありません。
政治の腐敗は民度の反映という一般論です。
ではまた。
★これまでの連載はこちら
●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(2)
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/306/
●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(1)
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/300/
●消費税の仕組みをおさらいしよう
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/297/
2016年05月09日
前回は、
内部留保は会社が持っている現金とイコールではない
ということを説明しました。
また、
内部留保が減る=役員賞与・配当金を払った 又は 赤字になった
ということも説明しました。
つまり、「内部留保を減らして賃上げに使う」ためには、現在の会計基準・税制に基づくと、現金の有無とは関係なく、「赤字になるまで従業員の給料を増やす」しかないということです。
従業員の給料を増やしても赤字にならなければ内部留保は増えてしまいます。
(従業員の給料を増やすことを主眼としているので、単純化するため役員賞与や配当金は払わないこととします)
では、内部留保を減らすために給料を増やして無理やり1億円の赤字を出したとしましょう。
内部留保は1億円減って2億円になります。
1億円の赤字でも給料を払わなくてはいけないので、借金を増やすとBSはこうなります。
もしくは、借金を増やさずに土地を切り売りするとこうなります。
一度上げた給料は、なかなか減らすのは難しいため、業績が上がらなければ翌年も赤字になります。
これを繰り返して内部留保を全て吐き出して、それでも給料を下げなければ純資産がマイナスになり、会社は「債務超過」になります。
借金が増え、資産を切り売りして、負債が資産を上回った状態です。
そうなると、投資家や金融機関から見放され、会社は立ち行かなくなります。
その前に、赤字が続けば借入金利が上昇して資金繰りに行き詰るかもしれません。
「内部留保を取り崩して賃上げ」という注文は現行法制下では無理難題だということが、お分かりいただけたでしょうか?
このお話、次回に続きます。
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●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(1)
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2016年04月25日
平成28年(2016年)熊本地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
会社が直接被災したことにより事業の休止を余儀なくされた場合、会社は従業員に対して休業手当等を支払う必要はありませんが、それでは従業員は生活していけません。
社長としては、少しでも払ってあげたいのはやまやまでしょうが、現金があるからと、ここで資金を放出してしまっていいのか?思い悩まれることと思います。
事業を再開し、未来へつなげていくためには、やはり資金が必要になります。
東日本大震災のときは、再起をあきらめ、手持ち資金を従業員に分配してしまって廃業した会社もあったと聞きます。
従業員の生活を守るためには、雇用保険の特例を使うという手があります。
直接被災企業の従業員は、一時的に離職することにより失業給付を受けることができます。
厚生労働省:地震により休業している事業主・労働者の皆様へ
通常、雇用保険では、離職した人が再び同じ会社で働くことが見込まれる場合は失業給付は受けられませんが、「会社が再開したら戻ってきてくれ」と約束しておいても失業給付が受けられるという特例措置です。
最寄のハローワークにご相談ください。
東日本大震災のときは、一時的な離職ではなく「休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない方」も特例対象でした。
厚生労働省:東日本大震災に伴う雇用保険失業給付の特例措置について
さらに、個別延長給付の特例が適用され、失業給付を受けられる期間が最大120日延長されました。
厚生労働省:平成23年 職発0502第6号
これらの措置は、「直接被災した」や「災害救助法指定地域」がキーになります。
では、被災地域の経済活動が止まったことにより間接的に休業を余儀なくされた場合はどうしたらよいでしょう。
間接的な休業では、会社は休業手当を支払う必要があります。
熊本で起きた地震で愛知県の自動車工場が休業し、その下請企業も休業し、そこに派遣している派遣会社は派遣スタッフを休業させたら休業手当を支払う義務がある、というわけです。
使用者の責に帰すべき事由
間接被害にあった企業が「特例措置があるから」と、従業員を間違って解雇でもしようものなら、向こう半年間は多くの雇用関係助成金が受けられなくなりますのでご注意ください。
こういった場合は「雇用調整助成金」が頼りになります。
リーマンショック直後、愛知労働局あいち雇用助成室に相談に行ったら担当官は一人しかおらず、「派遣会社は対象にならんよ」と、にべも無く追い返されました。
その後「派遣切り」が大々的に報じられるようになると、一転、派遣会社もウェルカムになり、助成金の受付スペースが拡大し、担当官が10人以上になり、まるで病院か銀行の待合のように整理券発券機まで導入され、労働局のホームページには申請書の作り方動画までアップされるようになりました。
確かに、雇用調整助成金は助かりました。
当時、中小企業向けは「中小企業緊急雇用安定助成金」という名称で、休業手当相当の4/5が助成されました。(現在は2/3)
当社のある岡崎市のお隣の豊田市・安城市は残りの1/5も補填してくれていました。
(東日本大震災のときは岡崎市も補填してくれるようになりましたが)
リーマンショックのときは、派遣労働者等が仕事を失うと同時に住む所も失うことが懸念されたため、離職後も住居を用意し続ける会社に対して「離職者住居支援給付金」という助成金が支給されました。
このように、補正予算が付いたり、法令・通達・運用が改正されることにより経済的支援が充実していく可能性がありますので、最新情報をチェックしましょう。
厚生労働省:平成28年熊本地震関連情報
では、次回は内部留保の話の続きです。
★これまでの連載はこちら
●「内部留保を賃上げ原資に」と言うけれど・・・(1)
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/300/
●消費税の仕組みをおさらいしよう
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/297/
2016年03月28日
会社の通信簿である「決算書」の中の計算書類には主に次のようなものがあります。
・貸借対照表(Balance Sheet 通称BS)
・損益計算書(Profit and Loss statement 通称P/L)
・キャッシュフロー計算書(Cash Flow statement 通称CF)
BSは会社の現在の体力を現し、その名の通り左右の合計額が一致します。
その「左右」とは何かを見るために、総資産10億円・資本金1億円で、次のようなBSの会社を考えてみましょう。
会社の安全度合いを見る一つの指標「自己資本比率=純資産÷総資産」が40%の優良企業です。
さて、この会社の「内部留保」はいくらあるでしょう?
「内部留保」の定義は様々ありますが、概ね図の右下の利益剰余金3億円のことを指します。
この図の通り、会社は資産を全て現金で持っているわけではなく、売掛金(物を売ったけどまだ現金を受け取っていないもの)、在庫、ビル、工場、機械、車、土地など様々な形で保有しています。
BSは、会社設立から、借金して、設備投資して、借金返済して、黒字、赤字を繰り返した結果の現在までの蓄積です。
生まれてから、食事して、寝て、筋トレして、ランニングして、筋力や持久力を鍛えてきた「現在の体力」というわけです。
会社の活動の内、内部留保を増減させるものは、非常に単純化して言うと、
内部留保が増える=黒字で利益が残った
内部留保が減る=役員賞与・配当金を払った 又は 赤字になった
だけしかありません。
「給料を上げるために内部留保を吐き出せ」という議論は、
内部留保=会社が溜め込んでいるお金
という誤解に、利益=現金という誤解を重ねて出てきたものですが、図の通り純資産は資産と負債の差額でしかなく、内部留保は純資産から資本金を引いたもので、会社が持っている現金とは対応していません。
では、左派はもとより、政権筋からも言及される「内部留保を減らして賃上げに使う」ためにはどうしたらよいでしょうか?
続きは次回。
★参考までに、こちらもどうぞ
●消費税の仕組みをおさらいしよう
https://www.trust-family.co.jp/wgs/blog/v/297/